Tellurは、……現在色々物色中です。

「サイレントメビウス」(麻宮騎亜、角川書店、1988)

2014年7月7日  2017年2月24日 
 大学入学した当初はまって、僕の未来都市やオカルト観に大きな影響を与えたマンガ。その割にはストーリーをあまり覚えておらず、確認のため読み返した。

 まず世界観や絵は素晴らしいとしか言い様がない。世界観はブレードランナー的(というか、レプリカントの反乱を示唆するシーンもあったため、同一の世界設定なのだが)サイバーパンク。そんな東京で人知れず起きる不可思議な事件と特別警察。サイボーグやネットへのダイブというモチーフとオカルトとの融合。一方で巨大サイクロトロンや軌道エレベーターというSF的ながらも実現しそうな未来技術。妖魔の姿もなかなかに生物っぽいけどやはり異形で、でも無機物ではない微妙なラインを突いており雰囲気抜群。

 ……なんだけど、ストーリーがやっぱアレだった。
 一番アレなのは敵の黒幕が「主人公は我々に協力することとなるだろう」云々と散々ほのめかしておきながら蓋を開ければ自我を飛ばして操り人形にしただけ。しかも主人公が自ら大切な人の命を奪えば短時間は意識が戻るってそんな不安定な手駒は使えないと思うんだが。ちなみにこれに限らず主人公周りの伏線や設定はかなりゴミである。例えば主人公が異世界との扉を開ける鍵なのはわかったが、「鍵」の具体的描写がセリフだけで処理されてしまったので読者にしたらいまいち緊張感を抱けなかったり。まあ、最終巻のカバー裏にそこらへんが作者本人にまでネタにされていて色々あったのかなと勘ぐってしまう。

 ぶっちゃけ、使われていない設定・伏線はこの作品に結構あって、今の視点で見ると粗が目立つ。設定が西洋的なオカルトの世界なので、主人公サイドの超能力者と巫女は見どころに欠ける。電子戦を行う妖魔もめったに現れなかったからネットにダイブするキャラも活躍の場が少なかったかな。でもこの作品がインターネットが一般的でない時代に描かれたことを考慮すると活躍した方だったかもしれない。
 ストーリーが印象に残らないのは、敵が思わせぶりなセリフを散々言うだけで、謎の解明などが描かれていないからだ。主人公の香津美を例に取ると、上にも書いたとおり「鍵」ってどういうこと? とかそれまでのストーリーから敵のボスを憎んでいるはずなのに妖魔側にいかにして洗脳されたか、などが全然わからない。磯崎課長が昔、妖魔側だったらしいといった物語の演出のために語られない内容とはわけが違う。さらに欲を言えば、登場人物が警察関係がメインなので妖魔による被害の重大さがいまいち伝わりにくかったのも不満である。特に終盤まで妖魔の存在を隠しているはずなのに、妖魔を知らない人間から見た視点がなかったし。あと、あんだけ大きな被害が頻繁に起こってて妖魔を隠し通せる管理機構が半端じゃない。

 題材は美味しいのだ。巨大ビルが立ち並びアンドロイドが実用化され、警察までもが民営化された暗い未来東京の片隅で起きた悪魔による殺人を人知れず処理する部隊。日本のサブカルチャーの世界では、妖怪や悪魔は民間人がこっそりと解決する系の作品も多いけど、僕の好みは公的機関による管理なので(だって公的機関が本腰いれて介入しないと物語が大きくならないでしょ……椎名高志氏の「GS美神 極楽大作戦!!」のスケールのデカさは国がオカルトを管理しているという設定があったからだ)まさにピッタリの設定なのだ。
 ただ何度も書くがストーリーが……。非常にもったいない。
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