Tellurは、……現在色々物色中です。

ヘイトフルエイト(クエンティン・タランティーノ監督、ア・バンド・アパート、2016)

2016年3月15日  2017年2月24日 
 ミステリー……なのか、これ? 鑑賞中は昔のアメリカ合衆国の黒人差別と南北憎悪に関する社会派映画だと思っていた。あの密室殺人のトリックはミステリーとして宣伝しないほうが良いと思う。アレを見た瞬間、手元にギターがあったら壁にぶつけて壊してたぞ。

 それはともかく、この映画は挑戦的だと思った。舞台が南北戦争直後ではあるものの、「ニガー」という言葉が連呼されている。言うまでもないが、この言葉は侮蔑語であり、アメリカ内ではたとえ歴史を舞台にしていても極力使わないと思っていたため、驚いた。このという言葉が「ヘイトフル」という内容を象徴的に表している。
 登場人物は南北戦争にゆかりがあるものが多い。敵として相まみえた白人老将軍と黒人少佐(うろ覚えだが、少佐で良かったはず)。白人老将軍を尊敬し黒人差別を隠そうとしない南軍のギャング団の息子で保安官を自称する男。黒人に差別意識を根底で持っているものの、黒人少佐がリンカーンと友達だから信頼する賞金稼ぎ。その賞金稼ぎに捕らえられた南軍サイドの凶悪犯である白人女。舞台となる雪山のロッジを預かる男はメキシコ系で、黒人から蔑まれる。差別感情を表に出さず中立でいようとする弁の立つ怪しい英国人は死刑執行人。この英国人は発音がイギリス流だから余計に胡散臭さが際立っていた。その他、自称カウボーイと黒人少佐と賞金稼ぎをロッジに連れてきた御者もいる。
 この9人が孤立したロッジに閉じ込められ、天候が落ち着くまで待つというのがストーリーだ。
 登場人物は平然と互いへの敵意と侮蔑を口に出す。全員銃を携帯しているという状況で、だ。彼らの身分は全て自分たちが申告しているに過ぎない。結果として、時が経つにつれ連帯はなくなり疑心が育つ。
 物語の山場は共同のコーヒーポットに何者かが毒を入れた時。毒を入れた瞬間を凶悪犯の白人女が見ており、そして賞金稼ぎと御者が死に、保安官は間一髪で逃れる。誰が毒を入れたのか。ついに銃が放たれるのか。ここからの展開は始めに書いたようにミステリーとしてはトンデモな展開もあるけど、最もスリリングなシーンである。

 この作品で面白かったのは主人公である黒人少佐をめぐる視点。当初は知り合いでかつリンカーンの友人だと聞かされていたため賞金稼ぎから信頼されていたが、リンカーンの友人は嘘だと自ら宣言したことで協力体制は破綻。次に南軍老将軍と穏やかに話すのだが、当初は全てを水に流したかと思いきや、老将軍を激昂させて返り討ちにする。最後は、当初差別をしていた白人保安官と黒人少佐が共に命をかけて敵を倒す。映画としては明らかに黒人少佐を主人公として作っており、しかし優等生な良い奴とは描かれていない。いざとなったら無意味に人を傷つけ知恵でもって舞台である南北戦争後の時代を生き抜く。なぜか現代っぽさを感じてしまったこの世界だが、たぶん現代的な問題点を交えているのだろう。
 この映画からわかるのは、どんなに敵対していても(保安官と黒人少佐)、それを上回る危機さえあれば協力できるということ。逆に言えば危機がなければ、アメリカ内の対立は乗り越えられないと示唆しているのだろうか。深読みできる映画である。
 それにしても雪山をバックに登場人物が睨みつけるポスターは素晴らしい。この映画で一番優れた絵だと思う。
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