Tellurは、……現在色々物色中です。

キングスマン(マシュー・ヴォーン監督、Marv Films、2015)

2016年4月20日  2017年2月24日 
 キック・アスの制作陣が集ったと聞いてある意味で納得した。クライマックス……の一歩手前で厳かな曲が流れ、派手な映像で逆転を演出する。キック・アスのあのシーンも、このキングスマンのあのシーンも、ノリは一緒で、されどキングスマンには笑い出してしまうユーモアも同時に持っている。よく考えると凄惨な光景だがこんなに楽しく描ける制作陣は素晴らしいな、と。
 そもそもこの映画でアクションシーンは売りの1つで、しかも音楽やカットの切り替わりもあいまって何となく明るいのだ。ナイフを体に刺したり銃を撃ってはいるが、流血シーンは最小限なので全然痛くなく、むしろ軽快なダンスを踊っているかのようで笑ってしまう。なんで面白いのかわからないけど、こんな感じの軽妙なシーンを撮れるのはやはり才能なんだろうな。

 映画の内容は古きスパイ映画へのオマージュと時代に即したネタという感じだ。正直、スパイ映画自体全く見たことないのだが、昔のスパイ映画はこんな感じなのか? どちらかというとアメコミヒーロー+ルパン三世的な印象を受けた。「ひみつ道具」という言葉に弱い人は絶対に観るべき。
 監督がイギリス人という先入観があったが、それに違うことなく、定職のない若者・大学という階級・昼間からパブへたむろする男たちとイメージ通りのイギリス人をこれでもかというほど描いている。あとはクラブってやつがあれば完璧だった。キングスマンという組織が(恐らくイギリスの公的機関と同様)基本的には大卒のエリートたちから構成されており、そしていわゆる労働者階級を見下し、ついには敵に迎合する輩も現れる様(少しネタバレ)はイギリスの階級社会に対する批判的な視線が読み取れる。キングスマンにとって守るべき平和というのは自分たちエスタブリッシュが属する社会なのではないかと思わせられるシーンがちらほらとあるからだ。
 そんな中で主人公及び味方サイドは階級的な先入観がない人というお決まりのパターンで、敵側はどれもこれも選民思想を持った方々。ま、2時間の尺であまり深いところまでは描けないよね。物語中の敵はスティーブ・ジョブズ! もとい、アメリカ人のIT企業家。ジョブズというよりもエリック・シュミットの方かも。伊藤計劃の「虐殺器官」のような発想と手段を元に人間は地球にとって悪玉なので人減らしを試みるというデビルガンダムのようなことをやらかす。正直、発想の割には手段がみみっちいしスケールも小さいので、もしや制作陣はアメリカIT企業がとことんまで嫌いなのかなと思ってしまう。普通、もっと国家規模の事件にするだろう!
 もっとも、この映画の設定は結構隙だらけなのでどうでも良かったり。例えば虐殺システムはIT企業家が常に掌紋認証し続けないと動かないのだが、全自動にしろよ、とか。ツッコミ部分をスルーできるかで評価が分かれると思う。

 そして描かれる「あの」シーン! 絶体絶命のピンチの中、敵のシステムを見事に利用した逆転劇のはずだが、威風堂々をBGMにスローモーションで頭を爆発させる(流血なし)ギャグシーンとしたのは狂ってるとしか思えない! ちなみに爆発の煙は人によって異なり、赤とかオレンジとかカラフルで綺麗である。……冷静に考えると頭を爆発させるsimカードを受け込む時に火薬も色々取り揃えたってことだから、敵のIT企業家も狂ってやがる。

 そんなこんなで事件を解決して母親を救いに行く主人公で幕を下ろすのだが、あまりにも紳士的な立ち振舞で少し困惑した。個人的に主人公はスターウォーズのジェダイ社会で言うとオビ=ワン・ケノービ的と思っていて、育ちも良くなく規則を破る人間だと勝手に考えていたので、パリッとしたスーツに身を包んだ紳士っぽい姿は何か違うと思ったけど、まあ細かい話です。

 どこまで本気でやっているかがわからない作品。もしかして本気で全編コメディとして作ってるのか? と思うほど。とりあえずBGMも素晴らしく切れの良いアクションは必見。何度でも観れる。
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