Tellurは、……現在色々物色中です。

「クズの本懐」(横槍メンゴ、スクウェア・エニックス、全8巻、2017完)

2017年5月24日  2017年5月24日 
 高校生以下と大学生以上の物語上の恋愛は異なる。とたいして経験もないのに感じていた。
 ティーンエイジャーとそれ以上、ではなく、あくまで高校生・中学生かそれ以上か、という対比だ。
 非常に感覚的な話なのだが、少なくとも「日本」の「男性向け」「マンガ」業界で描かれる「コメディ」寄りの恋愛というのは高校生・中学生の恋愛に特殊な意味付けをしていたと思う。このマンガを読んでその思いがはっきりとした。

 さっさと結論を書くならば、それは処女性というものだ。少女向け・女性向けマンガはたとえキャラクターが学生であっても性行為を厭わないケースが見られるが、男性向け、特に少年マンガの場合、女性キャラの処女性を極めて崇高なものとして扱う。肉体的な意味だけではなく、精神的な意味も含めて。世の中には性に関する情報が飛び交っておりキャラクターたちの日常にも影響を与えているが、一線だけは越えない、というのがよく見られる。
 例として挙げると、同じ作者の「レトルトパウチ!」(集英社)なんかはまさにそうだった。ついでだから他の作品も例に考えると、集英社つながりで「ゆらぎ荘の幽奈さん」(ミウラタダヒロ)、サンデーだと「天野めぐみはスキだらけ!」(ねこぐち)、古いけどマガジンの「スクールランブル」(小林尽)とか。それぞれハーレムモノだったり1対1の恋愛モノだったりコメディだったりシリアスだったりするが、総じてメインヒロイン格の女性は清く欲望を抱いても男性にとって御しやすそうな、そういったレベルである。性に奔放なキャラでも元からそういうキャラ造形をされていて、それで下手をすると実は耳年増なだけで初だった……とかいうパターンまである。まあ、お約束だ。細かいシチュエーションは忘れたが、僕が高校生だかの時、後ろの女子たちが朝勃ちについて話してたような、そういった男性から見た女性の異質さというのは少年マンガでは描かれにくい傾向にある(成人マンガはもちろん話が別だが、アレはアレで異なるベクトルのパターン化されたキャラ造形がある)。
 そして、面白いと言ってはいけないが、一方では性行為の暴力性をも隠蔽してきた。「いちごの学校」(きづきあきら・サトウナンキ)で描かれたような性行為の実際的な負の側面は描かない。恋愛の尊さとロマンと欲情だけ与えて、現実で必要な知識を隠す。それが僕から見た少年マンガの世界であり、ヒロインの非現実的な清さ・無垢さの要因にもなっていると考えている。前述の「いちごの学校」ではないが、学生と先生の恋愛がごく普通にマンガで描かれるのも影を描かなかった結果であり、日本がロリコン大国だと言われる1要因にもなっていると考える。

 恐らくそれが編集部の方針なのだろう。いや、少年マンガ世界のお約束とも言えよう。僕は恋愛マンガが苦手であまり読んでこなかったが、それでも数冊読めばわかること、小説や映画と比較すれば気がつくことであり、全年齢向けの世界で現代的(ネットで性の情報がいくらでも得られる上に、エンコーという言葉が浸透しちゃってるのだ)修羅場のない高校生の恋愛を描こうとするときの手法なのだと思う。それにより、ヒロインの初体験を巡ってドタバタするラブコメマンガ特有のフォーマットの完成となる。

 実のところ、このマンガもそのような「お約束」から逃れきれていない。女性主人公はいくら性格が悪くとも、いやだからこそ、無垢さが際立つ造形をしている。彼女のライバルとなる初恋の相手を奪った女性教師に至っては作中でも似た言葉で表されていたが、文字通り「無垢」であり(精神的な意味で。でも性行為の意味がここまで違っていれば肉体的にもある意味「清い」のでは?)、しかも物語の終わり近くで恋愛が成就しかけると、きれいなジャイアン化するコンボまで繰り出す。男性主人公は一見好青年に見えて消極的なヤリチンというなかなか面白い人(作中で一番清くはないので、登場人物の闇のしわ寄せが来てたと思う。余談だが、彼が女性主人公に「友達いないだろ」と言った時、「お前の方がいないだろ」と思ったのは僕だけではないはずだ)。彼の初恋の相手を奪った男性教師は人間を止めてる清さであり、これまた一部のキャラの闇を引き受けまくってた感がある。
 そんな彼ら彼女らが、では何をもって処女性としているかと言えば、精神的なものだろう。作中では「初恋」と表現されていたが、高校生2人は初恋が破れ、教師2人は初恋が叶う。初恋が叶わなかった2人は成長し、教師2人は方向性はどうであれ恋愛が叶ったことで成長するシーンがラスト。それぞれ人生を1歩前に進み良かったね、と思う(なお、軽く検索した限りだと、女性主人公が男性主人公と別れたのに不満を持つ人は多いっぽい。いやー、あのまま傷を舐め合う関係も地獄だと思いますよ)。
 同時にやはりというか、男性向け・少年向けであるので女性キャラが多い。特に女性主人公に想いを寄せる同級生が女性であるってことはなかなか示唆的だろう。同性愛を描く上で男性同士ではなく女性同士。まあ、この男性主人公だとのらりくらりとかわしそうで、だから泥沼に嵌まらせるために好意を真正面から受け止める女性主人公を選んだのだと思うが、結果として性行為やその周辺の情報に対するフィルターとして機能してしまった。もう少し突っ込んで書けば文句なしの名作になったと思う。ファンは着いて来れないかもしれないが。

 誰も彼もが若いなーというのが感想である。僕が恋愛に興味がないだけなのかもしれないが、別にそれが全てじゃないんだし、意外と短い時間で立ち直れるかもしれないよ。特にこの作品のキャラはアイデンティティというか自己実現というか、片思い期間が長くて引っ込みがつかなくなって恋愛してる風でもあったし。
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